最近読んだ本や調べものの中で気になった古代の話を、自分の備忘録としてメモしていくシリーズです。
今回は、川上しのぶ氏の古代史サイト「古代で遊ぼ」に登場する「呉越系」という分類について。
「呉越系」と聞くと、春秋戦国時代の呉国人と越国人をまとめた呼び方のように見える。
しかし、川上氏のいう「呉越系」は、それよりもはるかに古い長江文明まで遡る、広い文化系統を指しているようだ。
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「呉越系」は呉国人・越国人だけではない
川上氏は「神話と歴史のはざま」の中で、長江下流域に栄えた河姆渡文化・良渚文化を、後の呉越文化へつながるものとして捉えている。
つまり、川上氏の分類では、
という文化的な連続が想定されている。
そのため「呉越系」は、呉・越という国が成立した後の人々だけを指す言葉ではない。
呉・越が成立する以前から長江流域に存在した人々と、その文化を受け継いだ集団まで含めた呼び方になっている。
長江文明と三苗
川上氏は、河姆渡文化・良渚文化などに関わった長江流域の人々を、古代中国の伝承に登場する三苗と結びつけている。
三苗は一つのまとまった民族というより、長江流域を中心に暮らしていた複数の南方系集団を含む呼称として扱われている。
その後、三苗系の人々は各地へ移動した。
・北へ向かった人々は、黄河系・遊牧系集団と混ざった
・南へ向かった人々は、雲南・ベトナム・タイ方面へ広がった
・海へ向かった人々は、東シナ海や南西諸島を通って日本列島へ渡った
現在のミャオ族なども、この三苗系の流れを受け継ぐ集団の一つとして考えられている。
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したがって、あえて簡単に表現すれば、
「呉越文化の基層には、三苗・ミャオ系の古い文化がある」
ということになる。
呉・越・楚に分かれる前の渡来集団

【補足】
・「滇(テン)」についてはこちら
これまで考えてきた古代の渡来層には、呉・楚・越という国や集団が成立するより前から、日本列島へ入っていた南方系集団がいる。
川上氏の「呉越系」は、この古い層に近い。
時系列で並べると、
長江文明の古い稲作民
↓
三苗系の諸集団
↓
海を渡って日本へ入った南方海人系集団
↓
大陸側では後に呉・楚・越などの文化へ分化
という流れになる。
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つまり、日本へ来た人々が最初から「呉人」「越人」「楚人」と名乗っていたわけではない。
そのような区分が成立する前に渡来した人々を、後世の文化圏から遡って「呉越系」と呼んでいると考えられる。
稲作・海人・太陽・鳥
川上氏が呉越系・三苗系の文化として重視しているのが、
・稲作
・航海
・太陽信仰
・鳥の信仰
である。
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また、川上氏は三苗系の人々の一部を、東シナ海を横断し、朝鮮半島や南西諸島を経由して日本へ来た海洋民として捉えている。
海を渡る人々にとって、太陽や鳥は重要な存在だった。
太陽は方角や時間を示し、鳥は海上から陸地を探す手がかりになる。
やがて太陽と鳥は、航海の目印という実用的な役割を超えて、神や祖先を表す象徴になっていった可能性がある。
そのため、川上氏のいう呉越系は、
長江系稲作民
=三苗系
=南方海人系
=太陽・鳥を重視する集団
という複数の性格を持っている。
神産巣日神とのつながり
川上氏は、三苗系の古い文化を神産巣日神の系統へつなげている。
神産巣日神は、『古事記』の冒頭に登場する造化三神の一柱であり、大国主神を助ける神としても現れる。
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川上氏の整理では、神産巣日神の系統には、
・長江系の渡来者
・農業や植物に関わる者
・医療や呪術を担う者
・開拓に関わる者
などが含まれている。
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神産巣日神を単なる抽象的な生成神ではなく、長江文明・三苗系の文化を日本へ持ち込んだ人々の祖神として読んでいることになる。
川上氏は「呉越楚」という分類も使う
川上氏は、すべてを「呉越系」だけで整理しているわけではない。
「天孫降臨」では、
・呉越楚:東シナ海の漢文化系渡来者
・呉越楚:山東半島系渡来者
という分類も用いている。
したがって、川上氏の中でも、楚は完全に無視されているわけではない。
長江流域を基層とする人々が、時代・地域・渡来経路によって、
呉越系
呉越楚系
東シナ海経由
山東半島経由
などに分けられている。
ただし、「彦・日子」については、
彦は呉越系が祖にある人物の尊称であろう。
とされており、ここでは「楚」を含む「呉越楚」ではなく、呉越系という表現が選ばれている。
まとめ
川上氏のいう「呉越系」は、春秋戦国時代の呉国人・越国人だけを意味する言葉ではない。
その根には、
という流れがある。
あえて短く表現するなら、
「呉越系」とは、呉・越・楚に分かれる以前の三苗系・長江系文化を受け継ぐ人々
というイメージになる。
この古い渡来層を想定すると、日本神話に登場する「彦・日子」や、船・鳥・太陽・稲作に関わる神々も、後世の氏族分類とは異なる、さらに古い系統から見直すことができる。
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