天照の美豆良は「日高見」の正統性を示す記号だった?|ヒ族・キ族・天孫族を重ねて読む

天照大神がスサノオを迎え撃つ場面で、以前から気になっていたことがある。

天照はただ武器を持つだけではなく、わざわざ髪を美豆良に結い直している。

一般的には、これは「女神である天照が男性の髪型を結び、男装して武装した場面」と説明されることが多い。

でも、佐治芳彦のいうヒ族・キ族・天孫族について追っているうちに、少し違う読み方もできるのではないかと思えてきた。

美豆良そのものが、単なる「男性の髪型」ではなく、

もっと古い集団の文化的な記号だったのではないか。

そして天照が美豆良を結う描写には、

「私たちは日高見につながる古い勢力である」

という意味が重ねられているのではないか。

今のところ、そんなことが気になっている。

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日高見国の人々は「椎結」していた

まず気になるのが、『日本書紀』に描かれる日高見国の人々。

そこには、

「男女並椎結文身」

とあり、

男女とも髪を椎のように結い、文身していた

と描かれている。

佐治芳彦が紹介する説では、この日高見国とヒ族が重ねて考えられている。

つまり、

ヒ族
=日高見国
=椎結をする人々

というつながりが見えてくる。

ここで重要なのは、「男女とも」という点。

椎結そのものが、本来は男性だけの髪型だったわけではない。

そのため、椎髻・椎結の文化を考える時には、

「男性性」よりも「ある集団に共通する髪型」

として見る余地があるように思う。

美豆良も「椎髻系」の髪型だった?

美豆良は、髪を左右に分け、耳の横で結ぶ古代の髪型。

上げ美豆良や下げ美豆良など複数の形があり、人物埴輪にも多く見られる。

一方、椎髻という言葉も、必ずしも頭頂に一本の髷を立てる形だけを指すわけではない。

髪束を槌状・棒状にまとめる髪型の総称として使われる例があり、美豆良のように左右に分けてまとめる形も、椎髻の一形態として扱われることがある。

つまり、

美豆良と椎髻は完全な同義語ではないが、重なる部分がある。

ここから、

天照が美豆良を結う
=椎髻系の古い髪型を身につける

という見方もできるのではないかと思った。

天照はなぜスサノオを迎え撃つ時に美豆良を結ったのか

スサノオが高天原へ上ってくると、天照は、

国を奪いに来たのではないか

と疑い、迎え撃つ準備をする。

その時、

髪を美豆良に結う
↓
勾玉を髪に巻く
↓
弓矢を持つ
↓
地面を踏み鳴らして迎え撃つ

という描写が続く。

一般的には、

美豆良=男性の髪型
↓
天照が男装して戦士の姿になった

と読む。

ただ、もし美豆良が椎髻系の古い文化的髪型でもあったとすれば、

これは単なる男装ではなく、

特定の古い勢力の姿をまとった

場面だった可能性もある。

その候補として気になるのが、

ヒ族=日高見国

である。

天孫族は「天津日高」を名乗っている

さらに気になるのが、日向三代の神名。

ニニギ・ホオリ・ウガヤフキアエズには、

「天津日高」

という名が付いている。

佐治芳彦はこの「日高」について、

天孫族が、古くから存在した日高見側の名称や権威を取り込んだ可能性

を考えている。

つまり、

古いヒ族・日高見勢力
↓
その「日高」の権威を天孫族が取り込む
↓
「天津日高」として自らの系譜に組み込む

という構図。

これを天照の美豆良と重ねると、かなり面白く見えてくる。

日向三代になって突然「日高見との関係」をアピールしたのではなく、

天照自身の神話にも、すでに日高見系の文化記号が埋め込まれていたのではないか。

ということになる。

キ族=出雲族を追いやる側の正統性

佐治芳彦が紹介する説では、

キ族=出雲族系

と考えられている。

そして記紀神話では、

スサノオ
↓
高天原から追放
↓
出雲へ
↓
その系譜の先に大国主
↓
最終的に国譲り

という流れが描かれる。

つまり神話全体を見ると、

天孫側が出雲側を押しのけていく物語

として読むことができる。

ここで天孫族が後発勢力だったとすると、ひとつ問題が出てくる。

「なぜ後から来た自分たちが、この国を支配する正統な存在なのか」

という問題。

そこで、

キ族=出雲族よりも前にいた
ヒ族=日高見国の権威

を取り込んだのではないか。

そう考えると、

天照が美豆良を結う
=ヒ族・日高見系の姿をまとう

そして、

日向三代が「天津日高」を名乗る
=日高見の正統な継承者を名乗る

という二つの描写が、同じ方向を向いて見えてくる。

「私たちはキ族より前からいた側です」というアピール?

今のところ、一番しっくり来ているのがこの見方。

ヒ族
=古い日高見勢力

その後に、

キ族=出雲族

さらに、

天孫族

が登場する。

しかし天孫族は単純な新参勢力として神話に描かれてはいない。

むしろ、

「自分たちは、もっと古い日高見側につながる存在である」

という正統性を主張しているようにも見える。

その表現が、

天照の美豆良

そして、

日向三代の「天津日高」

だったのではないか。

つまり、

天照
=美豆良
=椎髻系の古い文化
=日高見・ヒ族の権威

を背負わせることで、

「私たち天孫族は、キ族=出雲族よりも前からこの国に存在した古い勢力の正統な継承者です」

という物語を作ったのではないか。

そんな読み方もできそうに思えてきた。

今のところのメモ

今の時点では、

美豆良=ヒ族の髪型

とまで直接確認できるわけではない。

また、日高見国人の「椎結」が、具体的にどの形の髪型だったのかも分からない。

ただ、

日高見国人=男女とも椎結

天照=戦闘時に美豆良

日向三代=天津日高

キ族=出雲族

天孫族=出雲側を押しのける側

という材料を並べると、

天照の美豆良を単なる「男装」と見るだけではなく、

日高見系の古い権威を身につける描写

として読む余地もあるように思う。

今後は、

記紀で美豆良を結う人物・場面

を集めてみたい。

誰が、どの場面で美豆良を結っているのか。

そこに共通する勢力や役割が見つかれば、

美豆良が単なる髪型以上の「集団の記号」だったのか

も、もう少し見えてくるかもしれない。

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