福井県敦賀市の気比神宮について調べていて、気になった名前がある。
主祭神伊奢沙別命(イザサワケノミコト)の別名、
御食津大神(ミケツオオカミ)。
なぜ「御食」の神なのだろう。
伊奢沙別命=御食津大神
気比神宮では現在、伊奢沙別命について、
御食津大神とも称し、食物を司る神
としている。
國學院大學の神名データベースでも、
伊奢沙和気大神之命
=御食津大神
=気比大神
と整理されている。
『古事記』ではイルカを「御食」として与える
『古事記』では、伊奢沙和気大神と後の応神天皇との名易えの話が語られる。
その際、大神は海辺に大量のイルカを用意する。
太子はこれを見て、自分に「御食の魚」を与えてくれたとして大神をたたえ、
御食津大神
と呼んだ、とされる。
つまり『古事記』自身が、
ミケ=御食
という説明を提示していることになる。
「ミケツ」の意味
一般的な解釈では、
ミケ=御食、神や天皇の食物 ツ=「の」に近い古い助詞
とされる。
したがって御食津大神は、
御食を司る大神
ほどの意味になる。
敦賀が海に面した土地であり、『古事記』でも魚が「御食」として現れることを考えると、ここでいう食は穀物だけではなく海産物まで含んでいる。
塚田氏は「后稷」と見る
一方、塚田氏は気比神宮について別の読み方をしている。
伊奢沙別命=御食津大神を后稷につながる農業・食物神と捉え、さらに境内の土公を后土に対応させている。
ただし、この「后土+后稷」の問題まで入れると「ミケ」から大きく枝が伸びるため、ここでは詳しく触れない。
<関連記事>
・気比神宮の土公と后土・后稷|なぜ「土」と「食」が並ぶのか?
気になるのは「ミケ」という音そのもの
『古事記』では、御食津大神という名について「御食を与えたから」と説明されている。
そのため、日本語としては非常にわかりやすい。
ただ、別に調べている塚田氏の説では、
ビッカ(ミッケ) → ミカ・ミケ
という音変化が提示されている。
しかも気比神宮が鎮座するのは越前。
塚田氏が「ミケ」を越系の地名音として分類していることまで考えると、
御食津大神の「ミケ」は、本当に食物の意味だけなのだろうか?
という疑問も残る。
今のところは、
『古事記』が示す御食の語義
と、
塚田氏が示す民族・地名音としてのミケ
を両方メモしておきたい。