記紀の神話を五行思想に当てはめて読んでみる。
もちろん、記紀のすべてが 五行 で作られている
と考えているわけではない。
ただ、神話の中には、
火 → 火
雷 → 木
桃 → 金
白 → 金
金 → 金
など、五行の属性ときれいに重なるものが出てくる。
そして、それらを単なる自然現象ではなく、
ヤマト王権がまとまる以前に存在した複数の古い勢力や祭祀集団の記憶
として読むことはできないだろうか。
今のところ考えていることを、一度まとめておく。
<関連記事>
・「ミンチャ族(ペー族)」についての記事一覧
・「民族・部族」についての記事一覧
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目次
イザナミとカグツチ|「火剋金」なのか?
(引用:wikipedia 五行思想)
『古事記』では、イザナミ は 火神カグツチ を産んだことでホトを焼かれ、死ぬ。
五行で見ると、
火 剋 金
という相剋がある。
火は金を溶かし、制する。
・
・
もし仮に、
イザナミ=金の属性
を持つ古層の存在、
カグツチ=火の属性
を持つ勢力、
とするなら、
火 が 金 を剋する
↓
カグツチ の誕生によって イザナミ が死ぬ
という神話構造と一致する。
カグツチの誕生・イザナミの死について、五行説の影響を考える研究は以前から存在している。
・
・
ただし、
ではなぜイザナミが「金」なのか?
は、まだよくわからない。
イザナミ=白族、ではない気がする
イザナミには、「ホト」関連神話が複数存在する。
<関連記事>
・日本神話の「ホト」|『古事記』『日本書紀』に出てくるホトの話
以前は、
ホト
↓
ポツォ
(ミンチャ族の自称)
↓
白子
(ミンチャ族は後の白族)
↓
白族
↓
白=金
という流れから、
イザナミ=白族系?
とも考えた。
<関連記事>
・白族の「白」は五行の「金」と関係する?|太白・金星から考える
・「ポツォ」とは?|『雲南』にみる民家(ミンチャ)の自称と白族
・
・
でも、今はもう少し古い存在として考えている。
イザナミは、
国を生む
山や海を生む
多くの神を生む
火を生み、死ぬ
という非常に原初的な女神。
・
・
特定の歴史時代の、
○○族
という名前が付いた集団よりも前の層にいるのではないか。
つまり、
イザナミ=後世に民族名で区別される以前の、古層の南方系・在地系の母体
というイメージ。
・
・
そこから後に、
などが分かれたり、重なったりした可能性も考えている。
黄泉の八雷神=「木」の複数勢力?
黄泉国では、腐敗したイザナミの身体に八柱の雷神がいる。
『古事記』では、
頭=大雷
胸=火雷
腹=黒雷
陰=拆雷
左手=若雷
右手=土雷
左足=鳴雷
右足=伏雷
とされる。
その後、この八雷神は千五百の黄泉軍とともに、逃げるイザナギを追撃する。
五行では、
雷=木
に属する。
ただし、私は、
八雷神=一つの木属性民族
とは考えていない。
むしろ、
雷・風・木・生命力など、似た世界観を共有する複数の古層勢力
が、八雷神としてまとめられている可能性を考えている。
・
・
そもそも八柱の名前も、
火
黒
裂く
若い
土
鳴る
伏す
など性格がばらばら。
「雷」という大きなカテゴリーの中に、異なる性格の勢力が複数いたようにも見える。
・
・
桃=金
が
雷=木
を撃退する
逃げるイザナギは、黄泉比良坂で、
桃
を投げつけて八雷神と黄泉軍を撃退する。
五行では、
桃=金
とする解釈がある。
そして、
雷=木
なら、
金剋木
となる。
この読みは私だけの思いつきではない。
桃崎祐輔氏は黄泉国神話について、
八雷神=の気
剣・桃=金の気
金剋木によって雷神を退ける
という構造を論じている。
つまり、
雷を桃で撃退する場面には、五行の「金剋木」が組み込まれている可能性
は、すでに研究上も指摘されている。
イザナギは「新しい金系勢力」なのか?
そこで気になるのがイザナギ。
イザナギが古層の母体だとすれば、
桃=金
を使って八雷神を撃退するイザナギは、
より後の金・白系勢力
を表している可能性はないだろうか。
・
・
たとえば、
古層の南方系勢力
=イザナミ
が存在し、
その後、
金・白を象徴とする集団
が現れ、
イザナギ側として古い勢力を再編した。
そんな可能性。
<関連記事>
・消された南の島の物語|黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)の謎
・
・
現在追っている、
Pe-tsö(ポツォ)
白子
白族
などがここにどこまで入るのかは、まだわからない。
ただ、
白=金
という象徴を持った比較的新しい南方系集団が、古い母体の神話を継承した、
という形なら、
イザナミにも「ホト」があり、イザナギ側にも金の象徴がある
ことも説明できるかもしれない。
「金の勢力が復活した」とは限らない
ただし、
イザナギ=そのまま白族
と決める必要もない。
もう一つ考えられるのは、
イザナギ側が「金」の祭祀や呪具を取り込んだ
という形。
古代の勢力交替では、
相手を倒す
↓
相手の神・祭祀・技術を自分たちのものにする
ということも考えられる。
つまり、
金属性の一族が勝った
のではなく、
新しい勢力が金系祭祀を利用して古い木系勢力を制圧した
という読みも残しておきたい。
「木」は一つの民族ではない
ここはかなり重要。
五行の、
木
火
土
金
水
を、
それぞれ一民族に対応させる
つもりはない。
特に、
木
風
雷
は、
成長
生命
動き
春
発生
など、複数の自然現象・生命原理をまとめた属性。
だから、
木=○○族
ではなく、
木の象徴を強く持つ複数の勢力・祭祀集団
が存在した、と考える方が自然に思える。
八雷神が八柱もいることも、この考え方とは相性がいい。
記紀は古代勢力の「統合神話」なのか?
今のところ、一番気になっているのはここ。
記紀の神々は、
一人の実在人物をそのまま神にした
というより、
複数の時代
複数の土地
複数の勢力
複数の祭祀
を一つの神名や神話へまとめた存在なのではないか。
そう考えると、
イザナミ
カグツチ
八雷神
イザナギ
の物語も、
単なる家族神話ではなく、
ヤマト成立以前の複数勢力の興亡・統合を、五行的な自然観の中で語り直した神話
だった可能性も考えられる。
今の仮置き
現時点では、
イザナミ
=民族名が成立する以前の古層・南方系母体?
カグツチ
=火を象徴する勢力?
八雷神
=木・雷・風・生命系の複数の古層勢力?
イザナギ
=より後の再編勢力。金系祭祀を持つ、または取り込んだ?
くらいに置いている。
そして、
火と日
については、今のところ別勢力として考える。
同じ「ヒ」という音でも、
日=太陽系
火=火・炉・火山系
は、まず分けて追ってみたい。
後に婚姻や政治的統合によって重なった可能性は、別途考える。
ここでいう「縄文系」とは?
この記事で便宜的に、
縄文系の勢力
という言葉を使うことがある。
ただし、これは考古学上の厳密な、
縄文時代人
という意味ではない。
弥生時代に入ってからも在地に残った集団や、渡来集団と混ざった勢力も含め、
ヤマト王権によって列島が大きく統合される以前から存在した古層・在地勢力
くらいの意味で使っている。
地域ごとに、
山
海
風
雷
火
水
太陽
金属
など異なる祭祀や象徴を持った集団が多数存在し、
後にそれらが記紀神話の中へまとめられたのではないか。
そんなイメージ。
まとめ
今の仮説は、
記紀神話には、ヤマト王権成立以前の複数の古層勢力の記憶が残っているのではないか
というもの。
そして、それらを記紀編纂時に整理する際、
五行思想
が物語の構造を説明する枠組みとして使われた可能性を考えている。
特に、
カグツチの火によってイザナミが死ぬ
=火剋金?
八雷神を桃で撃退する
=金剋木
という二つは気になる。
ただし、
五行の属性=一つの民族
とは考えない。
むしろ、
似た属性・祭祀・自然観を持った複数の勢力があり、それらが後世に統合された
というイメージ。
では実際、
金・火・木・日・水
には、どんな古代勢力が当てはまりそうなのか。
次の記事で、今の候補を整理してみる。
参考
・桃崎祐輔「桃呪術の比較民俗学(1)」
・國學院大學 古典文化学事業「意富加牟豆美命」
・THEONYM「カグツチ」
・Wikipedia「五行思想」
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