越:奴奈川姫伝承の馬はなぜ「黒き青毛」と「白い駒」なのか?|五行の色から考える

新潟県糸魚川市の根知谷に残る、奴奈川姫をめぐる伝承。

この話では、外からやって来た大国主命と、奴奈川姫を慕う在地の土地神が争い、二者は駒ヶ岳から跳び比べをする。

大国主命が乗るのは

一方、土地神が乗るのはなのだけれど、この馬の毛色には二つの伝承が残っている。

ひとつは、

「黒き青毛の駒」

もうひとつは、

「白い駒」

である。

単なる伝承の揺れなのかもしれない。

ただ、この「青」と「白」を五行思想の色として見てみると、少し気になるものが見えてくる。

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古い採録では「黒き青毛の駒」

現在確認できる資料では、「黒き青毛の駒」の方が古く採録されている。

1921年(大正10年)に刊行された『天津神社並奴奈川神社』では、奴奈川姫をめぐって土地神と大国主命が争い、

土地神=黒き青毛の駒

大国主命=牛

に乗って跳び比べをしたと伝えている。

この資料は、糸魚川出身の郷土史家・相馬御風が調査・編纂したもの。

伝承の中では、根知谷の別所山に馬の足跡岩牛の爪痕岩が残り、最後には敗れた馬が駒ヶ岳の山腹で石になったとも語られる。

一方、「白い駒」とする伝承は、1930年代にまとめられた『西頸城郡郷土誌稿 口碑伝説篇』に見える。

こちらでは、

土地神=白い駒

大国主命=牛

とされている。

つまり、現在確認できる採録順では、

黒き青毛の駒

白い駒

となる。

「青毛」は青い馬ではない

ただし、ここで一つ注意しておきたい。

馬の毛色としての青毛は、現在の感覚でいう「青色の馬」ではない。

一般には、

青みを帯びて見えるほど濃い黒色の毛

を指す。

そのため「黒き青毛」という表現も、普通に読めば、

非常に黒い、艶のある馬

という意味になる。

それでも気になるのは、伝承の採録者がわざわざ単なる「黒馬」ではなく、青毛という馬の毛色名を残していることである。

五行では「青=木=風」

五行思想では、五つの要素にさまざまな色・季節・方角・自然現象が対応する。

そのうちに配されるのが、




である。

つまり、

青 → 木 → 風

という対応がある。

ここで、根知谷伝承の在地神が乗る

「青毛の馬」

を重ねてみると、

馬=風のように走るもの

というイメージに、さらに青=木=風という象徴まで重なって見える。

私は最近、古代の「馬」が、単なる移動手段としてではなく、


速さ
山越え
境界を越える力

の象徴として扱われた可能性を考えている。

そう見ると、「黒き青毛の駒」という表現は、かなり気になる。

では「白い駒」は何を表すのか?

一方、後の伝承に現れるのが白い駒

五行では、

に配される。

そして金には、


西

などが対応する。

さらに五行の配当表を見ると、五畜では「馬」そのものが金に配される体系もある。

つまり、





という対応になる。

さらに陰陽や八卦まで広げると、金には女性といった要素も重なる。

この話の中心にいるのは奴奈川姫という女性神格。

そして根知谷という水の豊かな谷を舞台に、



女性

という組み合わせが重なってくるのも面白い。

ここには、私が追いかけている瀬織津姫に通じるような、

女性+水+流れ

のイメージも感じる。

「黒き青毛」と「白い駒」は別の意味を持っていた?

もし五行的な象徴がこの伝承に入り込んでいるとすれば、

黒き青毛の駒
=青
=木
=風

一方、

白い駒
=白
=金
=馬
=女性
=沢

という、かなり違った象徴になる。

もちろん、後世に五行思想によって色が付け加えられた可能性もある。

逆に、もっと古い自然観・祭祀の象徴が先に存在し、それを後世の五行思想で説明できる形になっている可能性もある。

今のところ、どちらなのかは分からない。

ただ、

土地神が「馬」に乗るだけでなく、その馬の色まで二種類伝わっている

という点は、拾っておきたい。

白馬は駒ヶ岳の「白い馬形」から生まれた可能性も

もう一つ気になるのが、駒ヶ岳そのものに残る伝承。

同じ地域には、駒ヶ岳の黒い岩壁に白い馬の姿が見えるという話がある。

さらに「松本の豪族」が大国主命と争い、その豪族の馬が逃げて駒ヶ岳で石になったという別系統の伝承も残る。

そのため、

山腹に見える白い馬形

白馬の伝承

という形で、後から「白い駒」という毛色が生まれた可能性も考えられる。

そうだとすれば、

古い「黒き青毛」

と、

山の景観から生まれた「白い駒」

は、そもそも成立過程が違うのかもしれない。

まとめ

根知谷の奴奈川姫伝承では、在地の土地神が乗る馬について、

「黒き青毛の駒」

「白い駒」

という二つの型が残っている。

現在確認できる採録では、1921年の『天津神社並奴奈川神社』に記された「黒き青毛」の方が古い。

五行思想で見ると、

青=木=風

となり、馬を「風」の象徴として見る今の考察とよく重なる。

一方、

白=金=馬

という対応もあり、さらに女性・沢などを含めると、奴奈川姫や水の祭祀を考える上でも気になる。

単なる毛色の違いなのか。

それとも、馬に込められた自然力の象徴が残っているのか。

「なぜ土地神は馬に乗るのか?」と同時に、「なぜその馬は青毛、あるいは白馬なのか?」も追っておきたい。

参考

糸魚川市「奴奈川姫伝説」
糸魚川市観光協会「奴奈川姫伝説」
『天津神社並奴奈川神社』(1921年)
『西頸城郡の伝説』/原資料『西頸城郡郷土誌稿 口碑伝説篇』(1936~1937年)
Wikipedia「五行思想」(五色・五気・五畜・八卦の対応)

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