記紀神話を五行思想と古代勢力の統合として読んでみると、
では、実際にどんな勢力がそれぞれの属性に当てはまりそうなのか?
が気になってくる。
もちろん、
金=この民族
火=この民族
と一対一で決められるとは思っていない。
一つの勢力が複数の属性を持つこともあれば、婚姻や同盟によって別の祭祀を取り込むこともあるはず。
なので今回は、
現時点で候補として気になる勢力
を整理しておく。
目次
まず「日」と「火」は分けて考える
最初に決めておきたいのが、
「ヒ」=日なのか、火なのか
という問題。
日本語ではどちらも、
ヒ
と読む。
しかし、今のところ私は、
日を祭る勢力と、火を祭る勢力は、もともとは別に考えたい。
と思っている。
後に婚姻・同盟・祭祀統合によって両者が重なった可能性はある。
ただ、最初から、
日=火=ヒ族
としてしまうと、古い勢力差が見えなくなる気がする。
なのでこの記事では、
「日」系
「火」系
を別項目として整理する。
「金・白」系候補|ポツォ・白族、コシ
まず、現在かなり気になっているのが、
金=白
の系統。
五行では、
金=白=西=秋
と対応し、
金星は、
太白
と呼ばれる。
そして、雲南で中国人からMin-chia(民家)と呼ばれていた人々は、H.R.デーヴィスの記録では、
Pe-tsö(ポツォ)
と自称していた。
後世の研究では、このPe-tsoを「白子」と対応させる例があり、現在の白族にも「白の人」を意味する自称が残る。
そのため、
ポツォ
白族
白
金
という線が気になっている。
さらに、日本側では現在追っているコシ族に、
白い駒
が関わる。
ここから、
コシ
白い駒
白
金
太白・金星
が同じ象徴体系に入る可能性を考えている。
ただし、
白族=コシ族
と考えているわけではない。
古い「白・金」の文化象徴を共有する別系統かもしれない。
「火」系候補①|カグツチ
火の象徴として最もわかりやすいのは、
カグツチ。
『古事記』では、
火之迦具土神
などと明確に火神として描かれる。
カグツチを単なる自然現象の火ではなく、
「火」を名に持つ一族や勢力の象徴
と考察している人もいる。
また、別の古代史考察では、
カグツチ=火の国の王
というかなり具体的な仮説まで出されている。
そこでは、イザナミの死を、
カグツチ勢力がイザナミ側を倒した事件
あるいは、
イザナミ勢力がカグツチ領域へ進出して敗れた事件
として読む可能性が提示されている。
もちろんこれは一つの仮説だが、
カグツチ=火の勢力
という読み方そのものは、すでに存在している。
「火」系候補②|火国・肥・火君
もっと具体的な歴史勢力として気になるのが、
火国
と火君。
現在の肥前・肥後につながる地域には、古く、
火
の字を使う伝承・氏族名が残る。
『肥前国風土記』などでは、
火君
につながる系譜も伝えられている。
つまり、九州には実際に、
「火」を名前に持つ政治・氏族勢力
が存在した。
カグツチの「火」と、この火国・火君がどこまで関係するのか。
ここはかなり気になる。
「火」系候補③|阿蘇の古層勢力
そして一番気になっているのが阿蘇。
現在の阿蘇神話では、
健磐龍命
が中心に置かれている。
ただ、阿蘇には健磐龍命以前から別の在地勢力がいたと考える余地がある。
阿蘇市の国造神社には、
速瓶玉命
雨宮媛命
高橋神
火宮神
が祀られている。阿蘇市公式資料でもこの四柱が確認できる。
さらに、境内には健磐龍命に退治されたという大鯰を祀る鯰社がある。
ここから、
健磐龍命以前の阿蘇在地勢力
↓
後に健磐龍系へ取り込まれた
という読みを考えている。
とくに、
雨宮媛=蒲池媛
とする伝承と、
その子に、
火宮神
がいることが気になる。
阿蘇の「火」の勢力は、
健磐龍命自身
というより、
健磐龍命に統合される以前から阿蘇にいた古い火系勢力
だった可能性も考えたい。
雨宮・蒲池は阿蘇の旧勢力?
雨宮媛は速瓶玉命の妃とされる。
阿蘇市公式資料でも、
速瓶玉命の妃=雨宮媛命
とされ、その子に高橋神・火宮神が置かれている。
一方、地域伝承では雨宮媛を蒲池媛とする説もある。
この構造を、
最初から同じ一族の夫婦
ではなく、
新しい支配勢力
×
古い在地女性勢力
という婚姻統合の神話として読むこともできる。
つまり、
雨宮・蒲池系
=健磐龍系に取り込まれる以前の阿蘇古層
だった可能性。
そして、その系譜に火宮が現れる。
ここは、阿蘇の「火」属性を考えるうえで重要そう。
ただし「雨宮」は長野にもある
ややこしいのが、
雨宮
という名称。
氏族としての雨宮氏には、
信濃・長野発祥
とする系譜がある。
そのため、
長野 → 阿蘇
という移動を考える説もある。
ただし、
姓としての雨宮氏の発祥
と、
雨宮媛という神格・古い祭祀
は別問題。
また、阿蘇・科野をつなぐ古代系譜そのものにも後世の編集が疑われるものがある。
なので、
信濃が先
阿蘇が先
は、今の段階では決めない。
私自身は、
阿蘇側の雨宮・蒲池伝承が古く、後世に信濃系譜と接続された可能性
も残しておきたい。
「日」系候補|日高見・ヒ族
一方、
日
の勢力として現在追っているのが、
日高見
とヒ族。
佐治芳彦氏の民族層の整理では、
コシ族
↓
ヒ族
↓
キ族・アマ族
↓
天孫族
という順序が考えられている。
このヒは、
日
として、
太陽
東
日の昇る地域
と関連する可能性が高いと考えている。
なので今のところ、
日高見・ヒ族=日系
とし、
火国・カグツチ・阿蘇火系=火系
とは分けておく。
後世に両者が婚姻や同盟によって重なった可能性は別途考える。
「木・雷・風」系候補|一つの民族ではなく複数勢力?
木属性は、さらに特定が難しい。
五行では、
木=春・東・青・成長
などと対応し、
雷や風も木の気と結びつけられる。
黄泉の八雷神が象徴するものも、
一つの雷民族
ではなく、
木・雷・風・生命力を重視する複数の古層集団
だった可能性を考えている。
ここには、
農耕集団
山岳民
風神祭祀
雷神祭祀
木神祭祀
など、かなり異なる勢力が入るかもしれない。
むしろ、
八雷神が八柱に分かれていること自体が、複数勢力だった痕跡
なのかもしれない。
「水」系候補|雨宮・蒲池など
水属性では、
雨宮
蒲池
という名前そのものがかなり気になる。
雨と池。
どちらも水のイメージが強い。
雨宮媛を蒲池媛と同一視する伝承があるなら、
雨
池
水
を持つ古い女性勢力が阿蘇に存在し、
火系・阿蘇系勢力との婚姻で統合された可能性も考えられる。
また、
ミズハノメ
海神系
河川祭祀
なども、水属性勢力の別系統として今後比較したい。
一つの勢力が複数属性を持つこともある
ここまで整理すると、
白族=金
阿蘇=火
ヒ族=日
のように見える。
でも、実際はもっと複雑だったはず。
たとえば阿蘇だけでも、
火山
水
農耕
風
馬
が全部必要。
一つの地域勢力の中に複数属性が存在して当然だと思う。
なので、
属性=民族
ではなく、
その勢力が特に重視した象徴・祭祀・技術
くらいに考えておきたい。
婚姻で属性が統合された?
古代の婚姻を、
単なる男女の結婚ではなく、
二つの勢力の政治的・祭祀的統合
と見ると、神話の見え方も変わる。
たとえば、
水・雨系の女神
×
火系・山岳系の男神
という婚姻があれば、
その子孫は、
火と水の両方
を継承する。
こうして、
日と火
火と水
金と木
など、別々だった属性が後世には同じ系譜の中へ入っていった可能性もある。
今の候補一覧
現時点では、こんな感じ。
| 属性 | 候補 | 気になる要素 |
|---|---|---|
| 金・白 | ポツォ/白族系、コシ | 白子、白、太白、白い駒、桃 |
| 火 | カグツチ、火国・火君、阿蘇古層 | 火神、火国、火宮、火山、炉・製鉄 |
| 日 | 日高見・ヒ族 | 太陽、東、日 |
| 木・雷・風 | 八雷神に象徴される複数の古層勢力? | 雷、風、成長、生命、山・農耕 |
| 水 | 雨宮・蒲池系、その他水神祭祀集団 | 雨、池、海、河川 |
これはあくまで、
今の探索用の仮置き。
今後資料が増えれば、かなり入れ替わると思う。
まとめ
今の段階で特に重要なのは、
「火」と「日」を分けて考えること。
同じ「ヒ」という音でも、
日高見・ヒ族
と、
カグツチ・火国・阿蘇の火系
は、まず別勢力として追ってみたい。
そのうえで、
いつ、どこで、どう両者が重なったのか
を見る。
また、
阿蘇の火系勢力
についても、
健磐龍命=火
と単純に置くのではなく、
健磐龍命に統合される以前から存在した阿蘇古層の「火」
を探したい。
雨宮・蒲池、火宮、鯰などは、その手がかりになるかもしれない。
そして、
金・白=ポツォ・コシ
火=阿蘇・火国
日=ヒ族
木・雷・風=複数古層勢力
水=雨宮・蒲池系
という今の仮置きを使いながら、
古代の婚姻・移動・統合を追っていきたい。
参考
・阿蘇市「国造神社」
・『令和2年 阿蘇の農耕祭事 記録集』
・名古屋神社ガイド「カグツチ」
・古田史学の会 西井健一郎「甕戸から大戸国への仮説―神世7代の神々・中編」
・ponolog「コシ族とは?|最古層とされる高志の集団(佐治芳彦)」
・桃崎祐輔「桃呪術の比較民俗学(1)」
