魚毒漁と雨乞いの儀式|ササイリはなぜ「雨を呼ぶ行事」だったのか

沖縄・奄美に残る魚毒漁について調べていて、気になったことをメモ。

魚毒漁とは、植物から採った毒を川や海に流し、魚を麻痺させたり仮死状態にして捕る漁法。

沖縄では、

ササイリ
ササ入れ
ナガレササ

などと呼ばれる例がある。

以前は「昔の漁法の一つ」くらいに思っていたのだけれど、資料を読んでみると、一部地域ではこれが 雨乞いの儀式 として行われていたことがわかった。

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大宜味村田嘉里の「ナガレササ」

わかりやすいのが、沖縄県 大宜味村 田嘉里の事例。

金城達也氏の論文では、田嘉里で行われていた魚毒漁「ナガレササと呼び、長期間雨が降らないときに行われる 雨乞いの御願・拝みの一つだったこと が紹介されている。

植物から作った魚毒である「ササ」を川へ流し、魚やウナギなどを仮死状態にして捕ったという。

つまりここでは、

ササを川へ流す

魚が浮く

魚を捕る

というササそのものが、

雨乞いの儀式

になっていた。

単に「雨乞いの祭りの日に、ついでに魚を捕った」というより、魚毒を流す行為自体が御願の中に組み込まれていた点が気になる。

石垣島白保でも「雨乞い」と魚毒漁

同様の例は、田嘉里だけではない。

盛口満氏の「琉球列島における魚毒漁についての報告」では、石垣島白保で行われていた集団魚毒漁について、

雨乞いと関連した行事に伴って行われていた

ことが紹介されている。

つまり沖縄本島北部だけの特殊な風習ではなく、八重山にも、

魚毒漁 × 雨乞い

という組み合わせが存在していたことになる。

なぜ魚を浮かべることが雨乞いになる?

ここが一番気になる。

なぜ、

毒を水へ流して魚を浮かべる

という行為が、

雨を願う儀式

になるのだろう。


今のところ、資料からその理由まで明確に説明されているわけではない。

ただ、行為を分解すると、

植物を採る

植物を搗く

水へ流す

川の流れが変化する

魚やウナギが水面へ現れる

共同体で魚を捕る

という一連の流れになる。

普段は水の中に隠れている魚が、一斉に水面へ姿を現す。

しかも、それを引き起こすために植物を水へ投入する

雨乞いという「水を動かしたい儀式」の中で、この行為が意味を持ったとしても不思議ではない。

個人の漁ではなく、共同体の行事

大宜味村史を見ると、ササ入れ(ササイリ)は個人が好きなときに勝手に行うものではなく、地域によっては集落単位で時期を決めて行う共同漁だった。

水路などで毎年一回行われ、参加者で魚を捕る。

つまり、

ササイリ=個人的な漁法

だけではなく、

共同体全体で行う行事

という側面があったことがわかる。

雨乞いとの結びつきも、この「共同体の行事」という性格を考えるとわかりやすい。

「ササ」という言葉も気になる

そして、ここでもやっぱりササという言葉が出てくる。

沖縄では、

ササ=魚を捕るための植物毒

という意味で使われ、

ササイリ=ササを水へ入れる魚毒漁

となる。

一方、日本語には、

ササ=酒

という古い呼び方も存在する。

さらに、

ササ
サカ
サケ

という近い音が酒の周辺にも現れる。

今のところ、

ササ=毒
ササ=酒

が同じ語なのかどうかはわからない。

ただ、どちらも植物から作ったものを水・液体に関わる形で利用するという点は気になるので、言葉としても今後追っておきたい。

魚毒漁は「漁」だけではなかった

魚毒漁という名前だけを見ると、どうしても、

を使って魚を捕る昔の漁法

というイメージになる。

しかし実際には、

雨乞い
御願
共同体行事
魚の分配

などと結びついた例がある。

少なくとも一部の地域では、

魚毒漁=生活のための漁

だけではなく、

水や雨に関わる祭祀的な行為

でもあった。


以前メモした、

魚毒漁と瀬織津姫|水へ流し、魚を浮かべ、海へ送る神

という話を考えるうえでも、この「魚毒漁そのものが雨乞いの儀式になっていた」という事例は、かなり重要な材料になりそう。

参考資料

■ 金城達也「地域社会の生活実践に内在する資源保全のしくみ―沖縄・奄美の自然資源利用から」

大宜味村田嘉里のナガレササについて、雨乞いの御願・拝みとして行われた魚毒漁の事例が紹介されている。

北海道大学学術成果コレクション


■ 盛口満「琉球列島における魚毒漁についての報告」

沖縄・奄美各地の魚毒漁についてまとめた論文。石垣島白保において、集団魚毒漁が雨乞いと関連した行事として行われたことが紹介されている。

CiNii Research「琉球列島における魚毒漁についての報告」


■ 大宜味村史 民俗編

ササ入れの方法や利用された植物、集落単位で行われた共同漁としての実態を確認する際の参考資料。

大宜味村「村史 民俗編」


■ 読谷村史編集室「しまくとぅば単語一覧―サ」

「ササ」「ササイリ」について、魚毒・毒流し漁としての意味や地域ごとの実施例が紹介されている。

読谷村史編集室「しまくとぅば単語一覧」

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