侗族の発酵魚と日本のなれずし|「米+魚」の食文化を比べる

中国南部に暮らす 侗族トンぞく を調べていて、以前から気になっていたものがある。

魚と米を一緒に発酵させる食文化。

侗族には「酸魚」と呼ばれる発酵魚があり、日本にも「ふなずし」等の似た文化がある。

今回は、侗族の酸魚と日本の ふなずし や なれずし 等について、調べて分かったことを一度ざっくり整理しておきたい。

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侗族の発酵魚と日本のなれずし

日本には

など、各地に「魚と米を一緒に発酵させる食文化」が残っている。

侗族 にも「酸魚」と呼ばれる発酵魚がある。

単に、

「どっちも発酵魚を食べるんだな」

というだけなら、それほど珍しい話ではない。

・
・

しかし、調べていくと、

魚+塩+米+桶や甕+重石

という製法だけでなく、

水田・淡水魚

そして、

祭りや神への供物

というところまで重なる例が出てきた。

侗族の「酸魚」とは?

侗族の食文化では、魚を発酵させた酸魚が広く作られている。

地域によって作り方には違いがあるが、代表的なものでは、

魚を塩漬けする

↓

蒸した糯米モチゴメなどを合わせる

↓

木桶や甕へ詰める

↓

葉をかぶせる

↓

石などの重石で圧して空気を遮断する

↓

数か月~数年発酵させる

という作り方をする。

・
・

三江侗族自治県で紹介されている酸魚では、草魚を塩漬け・乾燥した後、蒸した赤糯米、甜酒、唐辛子などを合わせ、甕へ詰めて芭蕉の葉をかぶせ、重い石で圧して長期間発酵させている。

また別の侗族地域では、草魚や鯉と糯米飯を木桶に交互に重ね、葉と重石で密閉する方法も伝わっている。

かなりしっかりした「魚+米」の発酵文化である。

日本にも「魚+米」の発酵食が各地に残る

日本の ふなずし・なれずし・飯寿司イズシ を調べてみると、地域によって魚も作り方もかなり違う。

代表的なものだけ並べると、こんな感じ。

地域 代表例 魚 特徴
滋賀
(県内全域)
ふなずし フナ 淡水魚・長期発酵・神饌
岐阜
(岐阜市・長良川流域)
鮎なれずし アユ 淡水魚・米・長期発酵
兵庫・但馬
(香美町)
鮎なれずし アユ 淡水魚・米・秋祭り・正月
三重
(県内全域)
なれずし アユ・サバ・サンマ等 神饌になる地域あり
和歌山
(有田地方中心)
サバなれずし サバ 秋祭りの行事食
石川
(県内全域)
かぶらずし ブリ 米麹・カブを使う/正月食/豊漁・安全祈願の起源説あり
秋田
(沿岸中心)
ハタハタ寿司 ハタハタ 麹を使う・正月供物
北海道
(道内全域)
飯寿司イズシ サケ・ニシン等 麹・野菜を使う寒冷地型

地域 実際の広がり
滋賀
(県内全域)
ふなずしは県内全域。
フナ以外にも琵琶湖水系の魚をなれずしにする文化がある。
岐阜
(岐阜市・長良川流域)
農水省が「鮎なれずし」の主な伝承地域として挙げるのは岐阜市。
長良川の鵜匠家などに伝承。
県北部の飛騨まで含む県全体の文化とは言いにくい。
兵庫・但馬
(香美町)
かなり局地的。
矢田川中下流域、香美町の香住区・村岡区周辺に伝わる。
三重
(県内全域)
県内全域。
伊勢・東紀州・中南勢・伊賀・北勢で魚種や製法が違う。
和歌山
(有田地方中心)
代表的なサバなれずしの中心は有田地方。
ただし日高、龍神、さらに紀南ではサンマ・アユなど別タイプも分布。
石川
(県内全域)
かぶらずしは県内全域に伝承。
ブリ+カブ+米糀で発酵させる「なれずし」の一種。
正月食として非常に強く、金沢市金石の漁師による豊漁祈願・安全祈願の行事食を起源とする説もある。
秋田
(沿岸中心)
沿岸部を中心に県内全域。
ハタハタ寿司なので日本海側文化としての色が濃い。
北海道
(道内全域)
飯寿司イズシは明確に道内全域。
魚種は地域によってかなり違う。

こうして見ると、

淡水魚+米による長期発酵

から、

海魚+米

魚+米+麹+野菜

まで、かなり幅がある。

詳しい分布は別記事にまとめることにした。

<関連記事>
・日本のなれずし・いずしはどこに残る?|地域・魚種・祭礼一覧

製法を比べると、基本構造はかなり似ている

特に気になったのが、侗族の酸魚と、滋賀のふなずしや岐阜の鮎なれずし。

細かな材料は違うけれど、

魚を塩漬け

↓

米と合わせる

↓

桶・甕へ詰める

↓

葉などで覆う

↓

重石をする

↓

空気を遮って発酵させる

という基本構造はかなり近い。

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一方で、侗族では 糯米 モチゴメや米酒、唐辛子などを使う例があるのに対し、日本の古いなれずしには魚+塩+米というかなり単純な形も残っている。

ここからすぐ、

「同じ民族が伝えた」

とは言えない。

ただ、少なくとも同じような発酵技術を持つ稲作文化圏として比較する価値はありそう。

詳しい製法比較はこちらに分ける。

<関連記事>
・侗族の酸魚と日本のなれずしはどこまで似る?|製法を比べる

古い形は「淡水魚+米」だった?

もう一つ気になるのが、使われる魚。

侗族の酸魚では、草魚や鯉などの 淡水魚 がよく使われる。

そして日本でも、

滋賀=フナ

岐阜=アユ

など、古い形を強く残すなれずしには 淡水魚 が目立つ。

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農林水産省も、なれずしについて、

東南アジアの山岳地帯で生まれた魚の貯蔵法が、稲作とともに日本へ伝わったと考えられる

と紹介している。

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だから今回の比較で注目したいのは、

「魚の保存食」だけではなく、「水田稲作+身近な淡水魚+米発酵」という生活文化のセット

なのかもしれない。

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ただし、

侗族の酸魚がそのまま日本へ伝わった

と確認できる資料があるわけではない。

日本への具体的な伝播経路や年代は、今のところ別問題として残る。

しかも「米+魚」は祭祀食にもなっていた

今回、一番面白かったのがここ。

侗族の薩歳を祀る祭りでは、

穀物

糯米飯

腌魚(発酵魚)

腌肉

などを携えて村を巡り、最後に薩壇へ戻って薩歳を祭る例がある。

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祭祀後には、それらの供物が「薩から賜った食物」として人々へ分けられる。

日本側にも似た構造がある。

滋賀のふなずしは、五穀豊穣を祈る神社の祭礼で神饌として奉納されることが多い。

三重県でも、なれずしを秋祭りの神饌として祷屋組織が作り、直会の後に各戸へ下げ渡す地域がある。

和歌山ではサバなれずしが秋祭りのごちそうとなり、親族などへ配る文化が残る。

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もちろん、

侗族の薩歳祭祀と、日本のなれずし神饌が同じ起源

とまでは言えない。

でも、

米+魚の発酵食

↓

祭りで供える

↓

共同体で分けて食べる

という構造が両方に見えるのは気になるところ。

この部分も、別記事でもう少し詳しく残す。

<関連記事>
・薩歳祭祀と日本のなれずし神饌|「米+魚」は祭祀食だった?

侗族から日本へ伝わったのか?

ここまで調べると、

「じゃあ侗族の祖先が日本へなれずしを持ってきたの?」

と言いたくなる。

でも、今のところそこまでは分からない。

今回確認できたのは、

・侗族には魚+米を長期発酵させる文化がある

・日本にも魚+米のなれずし文化が各地に残る

・特に古い型では淡水魚が目立つ

・製法にも共通する工程が多い

・侗族でも日本でも、発酵魚が祭祀・年中行事に使われる例がある

というところまで。

直接の系譜は不明。

ただし、

水田稲作と淡水魚を組み合わせた東・東南アジアの生活文化

という大きな枠から、日本のなれずしを見る価値はありそうだと思う。

関連記事

・侗族(トン族)について|記事一覧

参考

・广西民族报「侗族酸鱼:尘封着千年的味道」
・人民网「侗族“合拢宴”要吃“转转菜” 一家菜碗人接人传过去」
・通道県人民政府「春节|古朴神秘“祭萨节” 侗族人民迎春祈福」
・農林水産省「馴れずし(なれずし)|にっぽん伝統食図鑑」
・農林水産省「ふなずし 滋賀県」
・農林水産省「なれずし 三重県」
・農林水産省「なれずし 和歌山県」

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