侗族 と ミャオ族 の洪水神話について。
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ま侗族とミャオ族の洪水神話はどこまで似る?
侗族の洪水神話 とミャオ族 の洪水神話を追ってみると、
「いや、これ同じ話ちゃうの?」
と思うくらい、よく似ていた。
どちらにも、
雷
大洪水
瓢箪
生き残る兄妹
兄妹婚
人類の再生
が出てくる。
・
・
さらに異伝によっては、
兄妹から普通の子どもではなく「肉塊」が生まれ、それを分けることで多数の人間が生まれる
ところまで重なる。
・
・
ここまで似ていると、
「どちらかがどちらかの神話を借りた」
と考えたくなる。
でも、実際に比べてみると、
同じ神話の骨格を共有しながら、それぞれ別の創世神話・祖先祭祀へ接続している
ように見える。
今回は、その共通点と違いを整理しておく。
まず、共通する骨格を並べる
かなりざっくりすると、こんな感じ。
| モチーフ | 侗族 | ミャオ族 |
| 大洪水 | あり | あり |
| 雷との対立 | 雷・雷婆が関わる異伝あり | 雷公が洪水を起こす異伝あり |
| 生存手段 | 巨大な瓢箪 | 巨大な瓢箪 |
| 生存者 | 張良・張妹などの兄妹 | 洪水を生き残る兄妹 |
| 兄妹婚 | あり | あり |
| 婚姻を認める試練 | 亀・煙・水・石臼などの異伝 | 山・竹・石臼などの異伝 |
| 人類再生 | 肉塊を分け、人間が生まれる異伝あり | 肉塊を分け、人間が生まれる異伝あり |
| 現在の祭祀との接続 | 洪水兄妹の伝承・侗儺などに残る | 湘西では兄妹が儺公・儺母として祭祀される |
「洪水で人類がほぼ滅ぶ → 瓢箪で兄妹だけ残る → 禁じられた兄妹婚を経て人類を再生する」
という中心構造は、本当によく似ている。
侗族|張良・張妹が瓢箪で生き残る
侗族では、地域によって、
張良・張妹
姜良・姜妹
章良・章妹
などの名で洪水を生き残った兄妹が語られる。
・
・
湖南省新晃侗族自治県の伝承では、
大洪水によって人や動物がほぼ滅び、兄妹だけが瓢箪に入って生き残る。
洪水後、世界には二人しかいない。
千年の老亀などの助言を受け、
兄妹が結婚し、
そこから人類を再生する。
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・
異伝では、
二人から肉塊が生まれ、
それを切り分けて各地へ撒くことで、
多数の人間が生まれる話もある。
・
・
さらに、
洪水後に複数の太陽が現れ、
張良が弓で太陽を射落とす
という話まで続く異伝もある。
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・侗族の洪水神話|雷・瓜・兄妹始祖から人類が再生する話
ミャオ族|こちらも雷公・瓢箪・兄妹婚
ミャオ族 にも、ほぼ同じ骨格の洪水神話がある。
湘西ミャオ族 の伝承では、
人間が雷公を怒らせたため、雷公が大洪水を起こす。
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・
一組の兄妹だけが、
瓢箪の中に入って生き残る。
・
・
地上には二人しか残っていないため、
兄妹は結婚する。
そして妹から生まれたのは、
普通の赤ちゃんではなく肉の塊。
・
・
それを切り分けて投げると、
肉片から人々が生まれ、
人類が再び増えていく。
・
・
貴州省荔波周辺の異伝では、
兄妹は、
山を別方向から回って出会えるか
割った竹が元に戻るか
山から転がした二つの石臼が重なるか
などを試す。
つまり、
「本当に天地が兄妹婚を認めているのか」
を何度も確認してから結婚する。
「瓢箪」は、両方で生命を保存する容器
特に目立つ共通点が、
瓢箪。
・
・
侗族でもミャオ族 でも、
洪水で地上が滅びるとき、
兄妹は巨大な瓢箪の中へ入る。
・
・
つまり瓢箪は、
古い世界が滅びる
↓
瓢箪の中だけに生命が残る
↓
洪水が終わる
↓
瓢箪から人間が再び世界へ出る
という、
生命保存カプセル
のような役割をしている。
・
・
ミャオ族 には現在も「古瓢舞」が伝わり、中国非物質文化遺産網でも、
大洪水を生き残り人類を再生した「瓢箪兄妹」を記念する舞踊
と説明されている。
・
・
単なる昔話の小道具ではなく、
現在の文化にも洪水神話の記憶が残っている
ことになる。
人間と「雷」は、もともと親族だった?
さらに面白いのが、
雷と人間の関係。
・
・
洪水神話だけを見ると、
「雷神 vs 人間」
という敵対関係に見える。
でも、創世神話まで遡ると少し違う。
ミャオ族の場合
黔東南に伝わる苗族古歌では、
楓(フウ)の木
から、
蝶々媽媽
が生まれる。
・
・
蝶々媽媽が産んだ十二個の卵から、
人類始祖・姜央
雷公
龍
虎
水牛
蛇
などが生まれる。
つまり、
人間・雷・龍・動物は、もともと同じ母から生まれた仲間。
侗族の場合
侗族の叙事詩『起源之歌』では、
最古の存在である亀婆から、
人間と動物の共通祖先となる男女が生まれる。
・
・
そこから、
虎
熊
蛇
龍
雷婆
猪
猫
そして、
人類始祖・章良と章妹
などが生まれる。
・
・
こちらも、
人間・雷・龍・動物が、同じ生命の系譜に入っている。
ここまで来ると、
洪水神話の、
「人間と雷が争う」
という話も、
まったく無関係な神と人間の戦争というより、
同じ一族の中で起きた対立
のようにも見えてくる。
違い①|ミャオ族は「楓→蝶々媽媽→卵」
大きな違いの一つが、
洪水以前の創世神話。
黔東南ミャオ族 では、
楓の木
↓
蝶々媽媽
↓
十二個の卵
↓
人間・雷・龍・動物
という生命の系譜がかなり明確に語られている。
特に、
楓(フウ)
蝶
卵
は、ミャオ族 の創世神話を考える上で非常に重要なモチーフ。
・
・
侗族にも人間・雷・動物が共通祖先から生まれる話はあるけれど、
楓→蝶々媽媽→十二の卵
というミャオ族 特有の系譜とは違う。
違い②|侗族では「亀婆」がかなり上流にいる
一方、侗族の『起源之歌』では、
かなり上流に亀婆がいる。
・
・
洪水後の兄妹婚でも、
老亀が兄妹へ助言する
異伝がある。
つまり侗族側では、
亀が「世界の起源」と「人類の再生」の両方に顔を出す。
・
・
ミャオ族側でも亀などの動物が物語に登場する異伝はあるけれど、
今回確認した代表的な苗族古歌では、
楓・蝶々媽媽・卵
の方が創世神話の中心に立っている。
この違いは面白い。
違い③|ミャオ族では洪水兄妹そのものが神になる
今回、一番大きな違いだと思ったのがここ。
湘西ミャオ族 では、
洪水を生き残った兄妹そのもの
が、
儺公・儺母
という祖先神になる。
・
・
中央研究院に残る1930年代の湘西ミャオ族 調査資料でも、
儺公・儺母は、
洪水神話の兄妹始祖
として明確に説明されている。
・
・
しかも神話の中だけでは終わらない。
秋の収穫後などに行われる還儺願では、
儺公・儺母を祀り、
五穀豊穣
子孫繁栄
人や家畜の健康
災厄除け
などを願う。
・
・
つまり、
洪水を生き残った兄妹
↓
人類始祖
↓
祖先神
↓
現在の豊穣・守護祭祀
まで一続きになっている。
侗族には「薩瑪」という別の共同祖先神がいる
一方、侗族にも洪水を生き残った張良・張妹の伝承があり、
新晃では瓢箪が祖先救済の象徴として語られ、
侗儺の演目にも「張良姜妹」が残っている。
・
・
ただ、
今回確認した資料では、
張良・張妹=薩瑪・薩歳
とはされていない。
・
・
侗族には別に、
という、
「大祖母」型の共同祖先神・守護神
がいる。
・
・
つまり、現時点では、
湘西ミャオ族
洪水兄妹
↓
人類始祖
↓
儺公・儺母として現在も祭祀
↓
人類始祖・洪水伝承+薩瑪/薩歳という別系統の共同祖先女神
という違いが見える。
・
・
もちろん侗族にも多くの地域差があるので、
「侗族では洪水兄妹を祀らない」
とまでは言えない。
ただ、
ミャオ族 の湘西資料ほど、「洪水兄妹=現在の祖先神祭祀」がはっきり一本につながってはいない
というのが、今のところの違い。
違い④|侗族には「太陽を射る」話がくっつく
侗族の張良・張妹伝承では、
洪水が終わったあと、
複数の太陽
が一斉に地上を照らす異伝がある。
・
・
そこで張良が弓を射て、
太陽を減らし、
現在の太陽と月ができたと語られる。
・
・
つまり侗族側では、
洪水
だけではなく、
太陽・月の起源
まで同じ物語の中へ接続される例がある。
・
・
今回確認した湘西ミャオ族 の洪水兄妹神話では、
この射日部分は中心には出てこない。
ここは、両者の分かりやすい違いの一つ。
でも「どちらかが元」とは、まだ言えない
ここまで似ていると、
「ミャオ族 から侗族へ伝わった?」
「侗族からミャオ族 へ伝わった?」
と考えたくなる。
・
・
でも、今のところそこまでは分からない。
ミャオ族 と侗族は、
現在の貴州・湖南・広西などで長く隣接して暮らしてきた。
しかも、
洪水+兄妹+瓢箪
の神話は、
ミャオ族・侗族だけでなく、
中国南部や東南アジアの複数の民族にも広く分布する。
・
・
なので今は、
「どちらか一方が作って相手へ伝えた」というより、南中国~東南アジアに広がる古い神話圏を共有し、それぞれの民族が自分たちの創世神話・祖先祭祀の中で組み直した
と考える方が自然そう。
比較すると、一番面白いのは「同じ話のその後」かもしれない
洪水神話そのものだけを見ると、
侗族とミャオ族 はかなり似ている。
でも、
その話を何につなげたかを見ると違いが出る。
ミャオ族 では、
楓・蝶々媽媽・卵
という創世神話が洪水以前にあり、
洪水を生き残った兄妹は、
湘西では儺公・儺母という現在の祖先祭祀へつながる。
侗族では、
亀婆から始まる人間と動物の共通祖先
という世界観があり、
洪水兄妹の伝承とは別に、
薩瑪・薩歳
という「大祖母」の共同祖先神信仰が存在する。
つまり、
神話の部品はよく似ているのに、それを組み込んだ祭祀システムは同じではない。
ここが一番面白いところかもしれない。
今回のまとめ
侗族とミャオ族 の洪水神話には、
雷
大洪水
瓢箪
生き残る兄妹
禁じられた兄妹婚
婚姻を認める超自然的な試練
肉塊から多数の人類が再生する異伝
という、かなり強い共通性がある。
・
・
さらに創世神話まで遡ると、
人間・雷・龍・動物が同じ生命の系譜にいる
という考え方まで共通する。
・
・
一方で、
ミャオ族
楓 → 蝶々媽媽 → 十二の卵
という創世系譜が強い。
湘西では、
洪水兄妹=儺公・儺母
として現在の祖先・豊穣祭祀へ直接つながる。
亀婆 → 人間と動物の共通祖先
という創世系譜がある。
洪水兄妹とは別に、
薩瑪・薩歳
という「大祖母」の共同祖先神が存在する。
だから現時点では、
侗族とミャオ族 は「同じ洪水神話を持つ」というより、同じ古い神話圏の材料を共有しながら、それぞれ違う祖先観・祭祀体系へ組み込んだ
と見るのが一番しっくりくる。
・
・
どちらが元なのか、
いつ分岐したのか、
あるいはもっと古い共通文化層からそれぞれ受け継いだのか。
そこは、まだ分からない。
でも、
「雷・瓢箪・兄妹」だけでなく、その前後の創世神話と現在の祖先祭祀まで一緒に比較する
ことで、両者の違いが少し見えてきた。
参考
・新晃「非遺」辦/新晃新聞網「“张良张妹”的传说」
・中央民族大学 中華民族生態文明智慧網「贵州民族生态伦理的三个维度及其生态文明价值」
・新晃新聞網「感受侗族农耕文化之魂」
・新晃新聞網「湘西侗傩」
・中国非物質文化遺産網・中国非物質文化遺産数字博物館「苗族古歌」
・中国非物質文化遺産網・中国非物質文化遺産数字博物館「身体记忆与实践:清水江中上游苗族刺绣文化基因的形成机制」
・中国非物質文化遺産網・中国非物質文化遺産数字博物館「苗族古瓢舞」
・貴州政協報「荔波月亮山脉东南麓苗家民俗与传统婚庆习俗探寻」
・中央研究院歴史語言研究所歴史文物陳列館「儺公、儺母」
・中央研究院歴史語言研究所歴史文物陳列館「苗人の守護神―儺公と儺母」
・中央研究院歴史語言研究所檔案館「洪水兄妹故事與伏羲神話」
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