「洞(ホラ)」地名はなぜ岐阜と岩手に偏る?|谷・集落・開墾説をメモ

「洞(ホラ)」という地名について。

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「洞(ホラ)」という地名の分布

以前、X でこの呟きを見てから、「洞(ホラ)」という地名の分布について気になっていた。↓↓↓

岐阜と岩手が多い?

「洞(ホラ)」という地名

洞穴の「洞」だけれど、

三田洞(みたほら)

大洞(おおぼら)

長洞(ながほら)

など、日本の地名では ホラ・ボラ と読む例がある。

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そして「洞」のつく地名を全国地図で見ると、かなり偏っている。

特に目立つのが、

岐阜県 を中心とする濃飛地域

と、

岩手県 周辺。

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もちろん日本全国に谷や窪地は存在する。

それなのに、

なぜ、その地形を「洞(ホラ)」と呼ぶ地域はこんなに偏っているんだろう?

と、ずっと気になっていた。

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今回は、

「洞=谷」

という一般的な説明だけでなく、

「洞=開墾地・新しい集落」

だった可能性まで含めて、一度メモしておく。

「洞」は洞穴だけではなく「ホラ」と読む地名になる

現在の国語では「洞」といえば、

洞窟

洞穴

のイメージが強い。

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でも地名では、

ホラ

または、

ボラ

と読まれることがある。

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岐阜市の資料では、

「岐阜県では谷地形を 洞(ほら)という」

と説明され、

達目洞(だちぼくぼら)

掛洞(かけぼら)

などが例として挙げられている。

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岐阜市立中央図書館でも、「洞」のつく地名が岐阜県内に非常に多いことが紹介されている。

戦前の資料では、

揖斐郡 185

岐阜市 171

高山市 139

もの「洞」地名が確認されていたという。

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現在の行政区画とは異なる時代の数なので単純比較はできないけれど、

岐阜に「洞」地名が非常に集中している

こと自体は確かそう。

岐阜の「洞」はどんな場所?

岐阜の「洞」は、

単純な「大きな谷」というより、

山あいに入り込んだ小さな谷

谷頭が奥で閉じた場所

比較的ゆるやかな谷底

などを指すことが多い。

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岐阜市立中央図書館では、

山あいが入り組み、奥が詰まり、谷水がほとんどない地形

を「洞」の特徴として紹介している。

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実際、岐阜県飛騨市宮川町の洞には、

四方を山に囲まれた湿原があり、

そこから流れ出す水が 洞谷の源流 になっている。

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つまり「洞」は、

洞穴そのものというより、山に囲まれた小さな地形単位

を表す言葉として使われているように見える。

岩手にも「ホラ=窪地」という地域語が残る

そして面白いのが岩手。

岩手県紫波町の地名解説では、

「くぼ地を意味する語に、ホラ(洞)と クボ(久保)と ウド がある」

として、

高洞

竹洞

などが紹介されている。

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つまり岐阜だけではなく、

岩手でも「洞=ホラ=窪地・谷状地形」

という地域語が確認できる。

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ここで気になるのが、

> 日本全国に同じような谷や窪地はあるのに、
> なぜ「ホラ」という言葉を使う地域は偏っているのか?

ということ。

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同じ地形でも、

他地域では、

谷

沢

久保

迫

谷戸

など、別の言葉で呼ばれる。

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だから「洞」地名の分布は、

地形そのものの分布というより、その地形を「ホラ」と呼んだ人々の言葉の分布

を示している可能性がある。

「洞=谷」は後から生まれた意味だった?

ここで、かなり面白い説を見つけた。

地理学者の吉田茂樹氏は1978年の論文

「同義的類似地名の分析―ホラ・フレ・ハル・ホロについて―」

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で、「洞(ホラ)」の語源について別の見方を提示している。

吉田氏は、

ホラは最初から「谷」を意味していたのではない

可能性を論じている。

というのも、岐阜の「洞」地名を調べると、

谷だけではなく、

平地

台地

扇状地

にも存在する。

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そのため、

「洞=谷」

だけでは説明できない例があるという。

ホラ→ハル(墾る)という説

吉田氏が注目するのが、

ハル

という古い言葉。

日本語には実際に、

墾る(はる)

という古語がある。

意味は、

> 土地を新しく切り開き、田畑・道・池などをつくること。

『播磨国風土記』や『万葉集』にも用例が確認できる。

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つまり、

ハル=土地を切り開く・開墾する

という語は、本当に古くから存在している。

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話は逸れるけど…

・

<連想ゲームメモ>
「ハル」に「開墾」を意味する古語があったと知って驚いた。

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以前、天表春アメノウワハル命・天下春アメノシタハル命 の「春」について、「風神・雷神」的要素だったのでは?と思ったことがあったからだ。「風」も「雷」も、物事を動かす「自然の力」だ。「開墾」とも相性がいいように感じる。

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・
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吉田氏は、

ハル(開く・墾る)

↓

ハラ・ホラなどへ音が変化

↓

新しく開発された土地・小集落を「ホラ」と呼ぶ

↓

山地の開拓が進むにつれて、谷間の小平地に「ホラ」集落が増える

↓

「洞」という漢字が当てられる

↓

後世には「ホラ=谷」という地形語として理解される

という流れを想定している。

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・

つまり、

「谷だからホラと呼んだ」

のではなく、

もともとは、

「切り開いた土地・新しい集落=ホラ」

で、

そうした集落が山間の谷地に多かったため、

後から、

ホラ=谷

という意味が定着したのではないか、

という説。

「洞」は地形名ではなく、集落名だった可能性

この説が面白いのは、

「洞」という地名の偏りも少し説明できること。

もし「洞」が単純に、

谷

窪地

という自然地形だけを意味するなら、

全国の山地にもっと均等に分布してもよさそう。

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でも、

「新しく土地を切り開いて成立した小集落」をホラと呼ぶ地域文化

だったとすれば、

特定地域に集中することにも、それほど違和感はない。

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地形ではなく、

土地開発や集落形成に使われた地域語

だった可能性が出てくる。

とはいえ、「ホラ=ハル」は確定説ではない

ここは注意。

「洞」の語源については、

昔から、

水の少ない小谷

奥の詰まった谷

窪地

谷間の小平地

など、地形から説明する説もある。

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吉田氏の、

ホラ←ハル(墾る)

という説は、その地形説だけでは説明できない例をもとに提示された一説。

なので、

「洞の語源はハルで確定」ではない。

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今のところ私は、

① 地形語説
ホラ=谷・窪地・奥の詰まった小谷

・

② 開墾地・集落説
ハル(墾る)→ホラ
=新しく切り開かれた土地・小集落

・

③ その両方が重なった可能性
山間の小谷を開墾して集落化した結果、
「開墾集落」と「谷地形」の意味が重なった

くらいで保留しておきたい。

個人的には③がかなり気になる

「洞=谷」

と

「洞=開墾地」

は、一見すると別の説に見える。

でも、

山間の小さな谷底や窪地を切り開いて集落を作る

なら、両方が同時に成立する。

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もともと、

切り開いた土地・集落

をホラと呼んだ。

でも、そのホラが多く作られたのが、

山間の小谷

だった。

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・

その結果、

いつの間にか、

ホラ=谷

という意味になった。

という流れなら、かなり自然にも見える。

「洞」という漢字そのものにも注意

もう一つ注意したいのが、

最初から「洞」という漢字で呼ばれていたとは限らない

こと。

先に、

ホラ/ボラ

という地名の音があり、

後から、

その土地の地形に合う漢字として、

「洞」

が当てられた可能性もある。

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実際、

吉田氏も「洞」という字が常用されるようになったことで、

後世に「ホラ=谷」と理解されるようになった可能性を論じている。

だから地名を調べる時には、

漢字の意味から古い地名の意味を逆算しすぎない

ことも大事そう。

「洞」の字だけを全国検索するのも危ない

これも今回メモしておきたい。

全国から、

「洞」という漢字を含む地名

だけを拾うと、

異なる由来の地名まで混ざる可能性がある。

「洞」は、

ホラ

ボラ

だけではなく、

ドウ

トウ

など別の読み方もする。

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・

さらに、地域によって漢字の成立事情も違う。

なので本当に見たいのは、

> 「洞」という漢字の分布

より、

> 「ホラ/ボラ」と呼ばれる地名の分布

なのだと思う。

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例えば、

「保良(ホラ)」とかね。

今のところ一番気になるのは「地形」より「言葉の分布」

最初に見た「洞」の全国分布図では、

岐阜と岩手周辺にかなり強い偏りが見える。

もちろん、この分布図だけで古代の人々の移動や文化圏まで説明することはできない。

現在まで残った地名だけを拾っているため、

地名の消滅

市町村合併

漢字表記の変更

小字名が地図に載るかどうか

などの影響も受ける。

それでも、

全国に似た地形が存在するのに、「ホラ」という名称だけが特定地域へ偏る

という現象自体は気になる。

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・

これは、

その地形がどこにあるか

より、

その地形・開墾地・集落を「ホラ」と呼んだ言語文化がどこに残ったか

を見る材料なのかもしれない。

今回のメモ

今のところ、「洞(ホラ)」については、

・「洞」は洞穴だけでなく、谷・窪地を意味する地域語として使われる

・特に岐阜では「洞」地名が非常に多い

・岩手でも「ホラ=窪地」という地域語が確認できる

・日本全国に谷があるのに、ホラ地名の分布には偏りがある

・そのため、単純な地形分布ではなく「ホラと呼ぶ地域語彙」の分布を見る必要がある

・一説には、ホラは古語のハル(墾る=土地を切り開く)と関係する

・この説では、もともと「新しく開かれた土地・小集落」を指したものが、後に「谷」を意味するようになったと考える

・ただし「ホラ=ハル」は確定説ではなく、従来の谷・窪地説もある

というところ。

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私自身は、

「谷だから洞と呼んだ」のか、それとも「谷を切り開いて作った集落を洞と呼んだ結果、洞=谷になった」のか?

というところが特に気になっている。

ひとまずここまでメモしておく。

参考

・地理Bの旅(X)「「洞」のつく地名の分布図」
・岐阜市「岐阜市の自然」
・岐阜市立中央図書館「【展示紹介】地名のひみつ」
・岩手県紫波町「ふるさと物語85『地勢関係の地名と屋号』屋号や地名の話(4)」
・岐阜県「洞のミズバショウ、リュウキンカ群生地」
・吉田茂樹「同義的類似地名の分析―ホラ・フレ・ハル・ホロについて―」『兵庫地理』23、1978年
・コトバンク「墾る(ハル)」

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