中国南部に暮らす侗族。
以前から気になっていた民族で、調べてみると、
- 稲作
- 木造建築
- 魚と米を使った発酵食
- 祖母神を中心とする信仰
- 洪水神話
など、日本の古い文化を調べていると引っかかる要素がいくつも出てくる。
<関連記事>
・「民族・部族」についての記事一覧
・「トン族(侗族)」についての記事一覧
侗族(トン族)とは?
侗族は、中国南部を中心に暮らす民族。
現在は主に、
- 貴州省
- 湖南省
- 広西チワン族自治区
などに多く居住している。
中国語では「侗族」と書くが、彼ら自身が昔から「トン」と自称していたわけではない。
侗族による自称は、
gaeml
jaeml
などと表記される。
カタカナにすれば「ガム」「カム」に近い音になるが、地域によって発音には差がある。
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…ん?「カム?」
神阿多都比売(カムアタツヒメ)
神大市比売(カムオオイチヒメ)
神屋楯比売命(カムヤタテヒメ)
あたりの「カム」が気になってくるなぁ…と思いつつ。
また話がそれるので、ここはメモだけにしておく。
<関連記事>
・神阿多都比売・神大市比売・神屋楯比売の「神(カム)」とは?|侗族(Kam)との関係を考える
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つまり、
侗族・トン族
=外部からの呼称
Gaeml/Jaeml
(ガム・カム)
=自称
くらいに考えておくと分かりやすい。
侗族の言語は中国語とは別系統
侗族が話す侗語は、中国語の一方言ではない。
一般には、
タイ=カダイ語族
の中の、
カム=スイ諸語
に分類される。
中国南部から東南アジアに広がる言語群の一つで、日本語とも中国語とも異なる系統になる。
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また侗族は、もともと民族共通の独自文字を持たず、歴史や神話、知識などを 歌や口承 によって伝えてきた。
この点は、侗族文化を見るうえでかなり重要だと思う。
侗族の祖先は「百越」系?
侗族の古い歴史は、実はそれほどはっきりしていない。
独自の文字史料が少ないこともあり、いつ、どこで、現在の侗族につながる集団が成立したのかを細かく追うことは難しい。
研究上は、中国南部に広く存在した百越 ※と呼ばれる諸集団の一派につながるとする見方があり、その中でも駱越などとの関係が論じられてきた。
研究上は、侗族の祖先について、中国南部に広く存在した百越 ※系諸集団との関係が古くから論じられている。
その具体的な系譜については、駱越・僚など複数の古代集団との関連説があり、現在の侗族を特定の「百越」の一支族から直接つなぐことは難しい。
【百越】
以前の私は、
「長江中流域から南下した稲作民」
という形でかなり単純化して理解していた。
でも今は、
中国南部から東南アジア北部にかけて存在した複数の古い稲作集団の中から、長い時間をかけて現在の侗族につながる文化・言語集団が形成された
くらいに置いておく方がよさそうだと思っている。
侗族と稲作
侗族の生活文化を見るうえで欠かせないのが水稲。
・水稲:: 水を張った田んぼ(水田)で栽培される稲のこと。
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侗族の文化では、米は単なる主食ではなく、生活や祭祀、歌、共同体そのものと深く結びついている。
UNESCOが紹介する侗族の伝統歌謡「侗族大歌」にも、
「米が身体を養い、歌が心を養う」
という意味の言葉が紹介されている。
特にもち米文化が非常に強く、米作りとともに魚を養うような生活文化も発達してきた。
この「米+魚」という組み合わせは、後で日本の食文化と比較するとかなり気になるところ。
<関連記事>
・侗族の発酵魚と日本のなれずし|「米+魚」の食文化を比べる
釘を使わない侗族の木造建築
侗族の村で非常に目立つのが、
鼓楼
と、
風雨橋
と呼ばれる木造建築。
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特に鼓楼は、村人が集まり、話し合い、祭りや歌などを行う共同体の中心として機能してきた。
そして侗族の伝統建築には、日本人としてかなり気になる特徴がある。
釘や金属製の接合具をほとんど使わず、柱と梁を組み合わせて建てる。
日本建築学会の調査でも、侗族の鼓楼・橋・門・倉などには、柱に梁を通して固定する木構造が使われ、釘や鋼製接合具を使用しないことが確認されている。
だからといって、
「日本の木組み建築=侗族由来」
とはならない。
ただ、
稲作文化
に加えて、
高度な木造建築技術
まで持つ集団だった、という点は覚えておきたい。
<関連記事>
・侗族の木造建築|釘を使わない鼓楼と風雨橋
侗族は「歌」で歴史を残してきた
侗族文化のもう一つの大きな特徴が歌。
特に有名なのが、
侗族大歌
と呼ばれる多声部の歌唱文化。
指揮者や楽器を使わず、複数の声を重ねて歌う。
歴史や神話だけでなく、自然についての知識、人間関係、道徳、恋愛など、さまざまな情報が歌によって伝承されてきた。
2009年には「侗族大歌」がUNESCOの無形文化遺産代表一覧に登録されている。
つまり侗族の場合、
文字史料が少ない=歴史を持たなかった
のではなく、
歴史や知識を残す媒体が「文字」だけではなかった
ということ。
これは古い伝承を考えるうえで、かなり大事な視点だと思う。
侗族の祖母神「薩瑪」
そして、私が侗族を調べる中で特に気になったのが、
薩瑪
と呼ばれる女神。
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「薩瑪」は侗語の音を漢字で写したもので、
薩=祖母
瑪=大きい
という意味から、
「大祖母」
と解釈されている。
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特に南部侗族では、共同体の祖先神として非常に重要な存在であり、「薩歳(サースイ)」と呼ばれることもある。
村には薩瑪を祀る場所が置かれ、現在も「薩瑪節」と呼ばれる祭りが伝えられている。
中国の国家級無形文化遺産にも登録されている信仰だ。
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「侗族には祖母を意味する『サー』を中心とした祖先女神信仰が存在する」
というところまでを事実として押さえる。
日本の「サ」「サイ」「サヒメ」「歳」関係するか?は気になるところ
<関連記事>
・侗族の女神「薩瑪」とは?|大祖母を祀る祖先神信仰
侗族には洪水神話も残る
侗族には、雷や洪水、兄妹始祖などが登場する洪水神話も残されている。
ここには、
雷
洪水
兄妹
瓜
人類の再生
といった、中国南部から東南アジアに広く見られる洪水神話のモチーフが含まれる。
<関連記事>
・侗族の洪水神話|雷・瓜・兄妹始祖から人類が再生する話
「侗」と「洞」は同じなのか?
もう一つ、引っかかっているのは、
侗
と、
洞
という字。
古い史料では、侗族につながる人々が「洞苗」など別の呼称で記録された例もあり、さらに侗族自身の自称「gaeml」の語源についても、「洞穴」など近い音の語との関係を考える説がある。
ただし、自称「gaeml」の本来の意味は確定していない。
<関連記事>
・侗族は「洞族」なのか?|「侗・洞」と自称Gaemlの関係を整理する
日本との共通点はどう見る?
侗族を調べていると、日本の古い文化と重なって見えるものが結構ある。
稲作。
米と魚。
木組み建築。
山川や自然と結びついた信仰。
祖母神。
洪水神話。
村単位の祭祀。
口承による伝承。
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一つ一つなら、世界の別地域にも存在する。
だから、
「同じものがあるから同族」
とは考えない。
でも逆に、
複数の文化要素がどの地域に、どの年代に、どんな組み合わせで分布しているのか
を比較することには意味があると思う。
侗族は、その比較対象としてかなり面白い民族だと思っている。
侗族(トン族)|まとめ
侗族(トン族)は、中国南部を中心に暮らす、独自の言語と文化を持つ民族。
言語は中国語とは異なるカム=スイ諸語に属し、自称は「Gaeml/Jaeml」。
古い歴史については分からない部分も多いものの、百越系諸集団との関係が研究されている。
そして、
稲作
木組み建築
歌による口承
祖母神「薩瑪」
洪水神話
魚と米の発酵文化
など、非常に特徴的な文化を持っている。
参考
・駿河台出版社「【トン語】第1回~トン語とは~」
・駿河台出版社「【トン語】第2回~トン族の歴史と社会~」
・日本建築学会「中国侗族の杉による伝統木造建造物の研究」
・UNESCO「Grand Song of the Dong ethnic group」
・中国非物質文化遺産網「侗族萨玛节」
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